Nagasato's Lab@ 名城大学理工学部数学科です



  この研究室では,結び目(より一般に多様体)という対象について, 位相幾何学(Topology)という幾何学の一分野の視点に立って研究を行っています. 結び目と数学が結び付くことに関して,若干の違和感を感じる方も多いかもしれませんが, 非常に大胆に言うと,宇宙の形や,DNAに働く酵素の性質などを数学的に調べる研究などに 用いられる対象で,マクロからミクロスケールまで応用例があります.
  以下に記載される結び目の形については, KnotInfo(英語の ホームページ)や,結び目に関連する教科書であれば後ろの方に掲載されていますので, そちらをご覧になってください.


研究室情報
  • 新講義棟建設のため,研究室が4号館から11号館に移転しました.

  • 2016〜2017年度の研究室大学院生のメンバーは鈴木 心之助君でした. 3次元球面内の結び目に付随した被覆空間の位相構造を,その基本群のcharacter varietyの立場から研究しました. 特に,幽霊指標(ghost character)という概念を用いることで,abelian knot contact homologyに関するNg予想について, 反例を発見しました.
    *修士論文題目:On character varieties of the 2-fold branched covering spaces and abelian knot contact homology

  • 2013〜2014年度の研究室大学院生のメンバーは平 彩乃さんでした. Kauffman-Harary予想の拡張に挑戦し,部分的な結果を得ました.
    *修士論文題目:On effective Fox colorings of knots and the Kauffman-Harary conjecture

  • 2010〜2011年度の研究室大学院生のメンバーは長尾 佳典君でした. ツイスト結び目 K_m の指標代数多様体(character variety) $X(K_m)$ の非可換部分 $X^{nab}(K_m)$ が複素数体上既約であること (即ち,定義多項式が複素数体上既約であること)を,計算機などを用いて研究しました. 具体的には,"正"のツイスト数が999までなら,MAPLEにより $X^{nab}(K_m)$ は既約であることがわかります. ただ,999までというのは,1000以上の実行結果にエラーが出るというもので,可約になるということではありません. 幾つかのPCで試してみた結果,このエラーはPCの性能というよりはMAPLE上の問題の可能性があるかもしれないという結論に 至りました. また,上記の結果は,素な結び目の半順序において $K_m$ (0 < m < 1000) が極小元であることを示しています (一般の$m$についての既約性は,A. T. Tran氏との共同研究[14]において 肯定的に解決しました).
    *修士論文題目:On irreducibility of $SL(2,\mathbb{C})$ character variety of a knot and its applications

  • 過去の卒業論文をご覧になりたい方は,気軽にお知らせください.



2018年度のゼミでは,曲面やより一般に多様体のファイバー構造 について考察する予定です.現在,そのための修行を行っています.




 2018年度の研究室のメンバー(4年生5名)

  • 丹羽 友琢
  • 上田 侑暉
  • 加藤 康平
  • 河合 智春
  • 戸田 匡哉



2017年度のゼミでは, 位相幾何学的グラフ(平面グラフ,空間グラフ)を舞台として,ホモロジー群の理解を深めるための考察を行いました. まず「Eulerの一筆書き問題」から出発して,さまざまな空間グラフの性質を調べました. その中で,ゼミのメンバーは,Euler数が本質的な役割を果たしていることがわかったようです. そこで,Euler数の観点から,空間グラフを観察することにしました.あるとき,グラフにおける「1次元Betti数」という概念が現れ, ゼミのメンバーは3年次のホモロジーの講義を思い出しました.しかし,困ったことに,その本に書いてある1次元Betti数と, ホモロジーにおいて定義された1次元Betti数は,見た目が全く異なるものでした.ゼミでは,この2つの定義が同値であることを 理解できることを目標に,研究に取り組みました.特に,この同値性の問題を捉えるに当たり,鉄道路線図をグラフとして捉えることが, 直感を働かせるための「良い材料」であることを私から提案し,路線図を用いて,この同値性問題に取り組みました. すると,1次元Betti数の2つの定義は,路線図においては「整数上1次独立な環状線の個数」を示していることが理解できたようです. このとき,ではどのような環状線が路線図の中にあるのか,リストアップをしてみたくなるのは,数学を学んでいる方には わかるのではないでしょうか.ゼミの学生も例外ではなく,京都からスタートし,名古屋,東京等の路線図の 1次元Betti数を計算し,そのBetti数分だけの環状線を見つけようということになりました. すると,なぜか,1次元Betti数より多くの環状線が見つかってしまいます.それは,よく考えた結果「袋とじ」と命名した 路線図の立体交差のある部分で,1次従属な環状線が現れているということが原因であることを突き止めました. これにより,京都,名古屋等の環状線のリストアップが正確に実現できましたが,東京においては「袋とじ」が何層にも重なっている部分が 沢山あるため困窮を極めます.そこで登場したのが「レイヤリング(階層化)」でした. 具体的には,袋とじを階層化することで,立体交差になっている 路線図を階層別に分けて考え,各階層を平面グラフとして捉えるという操作です.これにより,1次独立な環状線を正確にリストアップ できるようになりました(110を超える環状線がありましたが,この数はどの鉄道会社のどこまでの路線図を考えてグラフ化したに 依存しますので,環状線のlower boundを与えたという方が正確です.) これらの内容を卒業論文にまとめました.



            
 2017年度の研究室のメンバー(4年生4名)

  • 後藤 彩可
  • 鈴木 文哉
  • 長嶋 幸一郎
  • 渡會 大貴



2016年度のゼミでは, 主に,4次元空間内の曲面について,その性質を射影図から理解することを目標に, 日々,射影図を描き続けました.まずは『クラインの壺』をどのようにしたら,自己交差のない 曲面として4次元空間に実現できるのかを,3次元空間への射影(第4番目の軸の高さを忘れたもの. 以降,射影図)を利用して理解を深めました.(一般にクラインの壺として描かれている絵は射影図です.) この理解からセミのメンバーが気付いたことは,クラインの壺の構成法の特徴,いわゆる『ねじれパイピング』工法です. これをたくさん行えば,向き付不可能閉曲面の量産ができることがわかりましたが,それが本当に異なる曲面であることは 議論が必要であることも直ぐに気付いたようです.その際,少し気になったのが,『実射影平面』という向き付不可能閉曲面でした. 射影図をそれらしく描けるようになると,この曲面は,ねじれパイピング工法では作成できなさそうだという意見が 見られるようになり,クラインの壺よりも実は基本的な向き付不可能閉曲面ではないかという議論が出てきました. (ただし,実射影平面は『ホイットニーの傘』とよばれる「ギュン!」と曲がった部分(分岐点)を持っているので, 見た目では,明らかに簡単というわけではありません.つまり『基本=簡単』とは限らないということです.) では,実射影平面が基本的であるなら,それをいくつかくっつけると,ねじれパイピング工法でできるのもに なるかもしれない・・・,これはセミのメンバーにとっては,何ができるのかわからないので,恐る恐るの提案でした. 射影図の形から,これを『食パン(切る前の1斤の形)』と名付けました.ゼミのメンバーは,この食パンにずいぶん長い間非常に 苦しめられたようです.あるメンバーが見つけてきた画像により『実射影平面=メビウスの帯(十字帽型)+円板』 ということが理解できた途端,状況は一変しました.この理解から,実射影平面をn個くっつけてできるn食パンは, nが偶数か奇数かで,複数のハンドルとクラインの壺か実射影平面(十字帽)が1つくっついた向き付不可能曲面になることが わかりました.但し,これらが全ての向き付不可能閉曲面を作っているということまで理解するには,時間切れとなりました. 上記の内容を卒論にまとめました.



           
2016年度の研究室のメンバー(4年生5名)

  • 磯部 至孝
  • 牛田 大登
  • 尾関 達也
  • 鬼頭 慧
  • 五味 雅貴



2015年度のゼミでは, 主に,3次元多様体の位相幾何学的性質について取り組みました. 特に,3次元球面内の結び目に沿ったデーン手術を用いて,向き付可能な閉3次元多様体 を構成し,ホモロジー群のMayer-Vietoris完全系列用いて,3次元球面とは同相ではない 多様体を構成できたことを確認しました.また,この手法から得られた結果を用いると, 3次元球面と同相ではない向き付可能閉3次元多様体を量産できることも理解しました. これらの内容を,卒業論文としてまとめました.



    1つ穴あきトーラスと共に(2015年7月撮影)
 2015年度の研究室のメンバー(4年生5名)

  • 篠ア 海広
  • 鈴木 心之助
  • 坪井 優奈
  • 深谷 高大
  • 安本 毅大



2014年度のゼミでは, 3次元や4次元空間の視点から曲面や結び目の位相幾何学的性質について考察しました.
  前期は,まず,曲面の構造を直感的に見るために,曲面をファイバーで埋め尽くす考察から始めました. 例えば,トーラスのファイバー束構造を調べるために,アルミの針金でトーラスを覆い尽くす考察や, メビウスの帯の「ねじれファイバー構造」を張りぼてで作って考察したりしました. その後,4次元空間内の曲面や3次元球面の様子を理解するために,モーションピクチャーという表示法を学びました. その際,3次元球面のヒーガード分解が得られる様子が,方程式を解くことによってはっきりと視ることができ, その重要性を実感しました.また「4次元空間内の曲面を3次元空間に射影した影」を用いて構成される射影図(破れ図式) について学びました.これは,結び目の射影図を構成するプロセスの自然な拡張になっていることから, 結び目の射影図のライデマイスター変形に対応した「4次元空間内の同位変形」を表す手法を調べることにし, ローズマン変形に辿りつきました.前期はここで終了しました.
  後期は,より詳しく4次元空間内の曲面について考察しました.特に,C. Adams著(金信泰造訳)の「結び目の数学」 に掲載されている4次元空間内の曲面に注目しました.この曲面はモーションピクチャーで表示されており, 記述によると『その曲面は2次元球面と同相で,4次元空間内の同位変形では解けない (3次元球体を包むような形にできない)』ということでした.また,この事実は,基本群という群を用いると示すことが できると書いてありましたが,ゼミのメンバーは,前期の幾何学の講義で学んだ「結び目の彩色」がこの曲面にも 適応できないかということを考えることにしました.その際,まず,この曲面の全体像をつかむために, モーションピクチャーから,破れ図式を構成する作業に手分けして入りました.非常に良い図式が得られ, 全体像がつかめたところで,今度は,破れ図式に現れる曲面片(シート)に彩色を施すことを考えました. ここまでは結び目の彩色とほぼ同様に作業を進めることができたのですが,いわゆる「彩色の交差条件」を 曲面の場合にはどう定義するかが問題となり,調べてみたところ,曲面の同位不変量にするためには, 結び目の彩色と同様の合同式(*)で定義してよいことを確認しました.曲面がほどけないことを示す試みに必要な 全ての材料が出そろったところで,実際に,曲面の破れ図式の彩色を行ったところ,3彩色可能であることが わかりました.非常に良い議論ができたと思います.また,最後に,上記の合同式(*)から得られる彩色解が ローズマン変形で"本質的"に不変になることを,ゼミのメンバーで3彩色の場合に確認しました. これらの結果を卒論にまとめました.



  束々トーラス等の工作と共に(2014年7月撮影)
 2014年度の研究室のメンバー(新4年生6名)

  • 今西 洋介
  • 斎藤 美音
  • 提坂 泰之
  • 佐藤 正之
  • 藤田 光樹 
  • 三ツ口 智貴



2013年度のゼミでは, 主に曲面(より一般に多様体)のトポロジーについて,4次元空間の視点から取り組みました.
  前期では,まず,空間認識を高めるために,ゼミのメンバーには,ひたすら黒板に 2次元球面,トーラス,クラインの壺(はめ込み)の絵,また,それらにメッシュ(mesh)を 描きく加えて,より曲面らしく見える様に描く特訓を,1ヶ月もの間やってもらいました. そのお陰で,私よりもきれいに,より立体的に見える絵を描ける様になったメンバーもいます. その後,今度は,4次元の感覚をつかむために「4次元空間では結び目は全てほどけてしまうこと」を 直観的に考えたり,「2つの3次元球体が,その表面の2次元球面できれいに張り合う」状況を, 方程式を用いて代数的に調べました.この考察に関連して,ポアンカレ予想について少しだけ調べてきた メンバーがいましたので,基本群の直観的説明をした際に「3次元球面の基本群は自明な群である」ことを 考察しました.この過程で,多様体についての定義もゼミのメンバーで確認することができました. また,上記の貼り付けでは,少々3次元球体を"曲げる"のですが「5つの正4面体なら, その各面で"曲げず"に貼り合わせることができる」ことを,距離や内積を用いて,実際に確かめました. その際,計算結果から,3次元空間において1つの正四面体の各面に貼り合わせた 4つの正四面体の余った4頂点が,4次元空間で最終的に1点に集まる点の候補が2つ出てきますが, それは非常に自然である(閉じる方向は"上"と"下"の2種類ある)ということも実感できました.
  後期では,前期に扱った内容をひたすら深めることに焦点をあてました. 多様体については,Dehn手術について調べてくるメンバーもいました.その際,非常に初歩的なファーバー束(fiber bundle) やファイブレーション(fibration)について考えました.また,クラインの壺を平面モデルから作る際,閉じる順が2種類ありますが, その順序によって,できる図形が全く別物に見えることを深く考察して,4次元空間で貼り合わせた場合,それらは本質的に同じ図形であることを, 曲面の「破れ図式」の変形から調べるメンバーもいました.その際,ホイットニーの傘(分岐点)の消滅(融合)・生成など,非常にきれいな 現象を見ることができました.また,その発展として,実射影平面の4次元空間での実現を考え,その直交射影が ボーイ曲面(Boy's surface)になる様なものは存在しないことを「ボーイ曲面の破れ図式による表示の不可能性」から考察しました.
  毎回,学生が自主的に調べてきたことを発表する,またそれらをゼミのメンバー全員で考える, というよい取り組みのお陰で,非常に深い卒業研究ができたと思います.上記の内容について,卒業論文にまとめました. また,ゼミで扱った曲面の模型を"はりぼて"で作成しました(最終作品は非常に良い出来です).


クラインの壺(初号機)の工作と共に(2013年7月撮影)
 2013年度の研究室のメンバー(4年生5名)

  • 岡田 寛之
  • 片桐 遼
  • 城殿 智幸
  • 中根 俊介 
  • 藤岡 雄貴



2012年度のゼミでは, 前期は,教育実習前に,3年次の位相幾何学で学んだ曲面のトポロジーの続論として, 3次元空間内にはめ込まれた向き付け不可能な曲面であるクラインの壺,射影平面について考察してみました. まず,クラインの壺を図を用いて観察した後,射影平面について図で考察してみましたが, 自己交差の部分の理解がなかなか難しいということで,工作で実際にはめ込みの状況を作ってみることにしました. ゼミのメンバーの力作のおかげで,クラインの壺で考察した例には現れなかった「ホイットニーの傘」という 特殊な自己交差の部分を詳しく観察できました.また,その中で4次元空間や3次元球面について考えることで, 上記の曲面が4次元空間では,どの様に埋め込まれているか考察しました.これらの考察で,曲面の性質を調べるには, 空間内におけるその「位置(position)」が大切だということを直感的に感じることができたと思います.
  教育実習後は,より具体的な考察として,3次元空間内の閉曲線(いわゆる結び目)の位置(position)について考えました. まずは,結び目の"組み紐の位置"(一般には「組み紐表示」という)について,山田先生のバンチング操作を学んだ後, いくつかの結び目の組み紐の位置を与えましたが,紐の最小本数を求めるのは容易でないことが分かりました.
  後期は,まず,夏休みで忘れてしまったであろう位相幾何学の感覚を取る戻すべく,向き付け可能な曲面が 何枚の自己交差のない開円板で覆えるか,その最小数(いわゆるLSカテゴリー)について考えた後, 結び目の組み紐の位置を"よりマイルド"に捉えた「橋の位置(bridge position)」について考えました. まず「橋」とよばれる部分の性質から,橋が1つのpositionを持つ結び目(1橋結び目,1-bridge knot)は自明な結び目であることを確認しました.この橋の定義から自然に2橋結び目のシューベルト表示 (Schubert form)が得られます.一方で,組み紐を用いた結び目の橋の定義(プラット表示,plat presentation)からも 橋の位置の議論を進め,プラット表示からシューベルト表示を得る操作について考え,まとめました.
  また,Livingston著「Knot theory」で2橋結び目のコンウェイ表示(Conway form)について学び, 2橋結び目・絡み目を有理数に対応させることで,結び目の同値性について判定できるというシューベルトの 驚くべき定理を目の当たりにしました.但し,一般の4-plat表示とは異なり,コンウェイ表示では 必ず右端の曲線が他とは絡みがない(つまり組み紐の部分においてσ_3とその逆元が現れない)のですが, このことについての証明はありませんでしたので,ゼミのメンバーでこれを証明することにしました. シューベルト表示から見ると,直観的には正しそうですが,ゼミのメンバーは 「ある結び目が4-plat表示を持つとき,一番右の線分が他の線分と絡んでいる場合, その絡みを解消するアルゴリズムを構成する」ことを目標として研究に取り組みました. 最終的に得られる表示は,考察時に見られた複雑さからは想像できないシンプルなものになることは驚きでした. また,有理数からシューベルト表示を構成する際に現れる数列の性質や, 2橋結び目・絡み目をプランビング(plumbing)で群構造を導入するというアイデアを発展させて 結び目の性質を研究したメンバーもいました.これらのことをそれぞれ卒論としてまとめました.


      射影平面等の工作と共に(2012年7月撮影)
 2012年度の研究室のメンバー(4年生6名)

  • 阪井 淑香
  • 濱田 実奈美
  • 田中 蓮
  • 八木 美沙季 
  • 山田 千尋
  • 山本 明里



2011年度のゼミでは,3年次後期の「数学研究」という 講義で,3次元,4次元内に埋め込まれた曲面をどうとらえるかについて考えていたこともあり, その続きとして,結び目のSeifert曲面の性質について調べることにしました.前期では,まず「結び目に膜を張る」ことを 実際に工作で実践してみましたが,交差の部分でどうしても"うまく"貼れないといった壁にぶち当たるメンバーが 続出しました.そこで,その解決策として,「Seifertのアルゴリズム」という膜を張る設計図の作成方法を参考文献に おいて学びました.その設計図を基に,三葉結び目,8の字結び目のSeifert曲面をはり,そこから "標準的な"一つ穴あきトーラスへ同相変形を行いました.これにより,構成されたSeifert曲面の種数が1であることがわかります. また,同相変形の感覚をより実感できるように,『1つ穴あきトーラスの裏返し工程』をいくつかの段階に分け, その各段階を"はりぼて"で作成しました(卒業研究発表会で作品を展示しました). これにより,裏返しで穴あきトーラスの meridian と longitute が入れ替わる様子がはっきりと実感できるようになりました. また,名古屋工業大学の平澤先生をお招きして,2橋結び目のSeifert曲面について講演して頂きました. "禁断の分数の足し算"と連分数との関連について,学生達も非常に興味を持った様です.
  後期では,結び目のSeifert曲面の種数と,結び目の既約分解について 勉強しました.目標は,素数に対応する結び目の判定法を理解し,実行できる様になることです. まず,Seifert曲面の種数をオイラー数を使って計算する方法を理解し,実行しました. 様々な実験を通して分かったことは,Seifert曲面の種数は,結び目の交差の個数と密接にかかわっている ということで,Seifert曲面が構成できれば,意外と直ぐに種数が計算できるような公式が導けます. また,1つの結び目からは沢山のSeifert曲面を構成できますが,そのうちの最小種数を「結び目の種数」を定義すると, 結び目の種数の連結和に関する"加法性"がわかります. このことを用いると,素数に対応する「素な結び目」が判定できるケースがあることに気付きました. また,「交代結び目の交代射影図にSeifertのアルゴリズムを用いて得られるSeifert曲面は最小種数をもつ」 という事実を理解するため,ゼミのメンバーで"もっともやさしい"証明があるというD. Gabai氏の論文を読んでみましたが, 定理の証明に書かれている幾つかの操作が良くわからず,時間切れになってしまいました・・・. 以上の内容を卒業論文としてまとめました.


        卒業研究発表会にて(2012年1月撮影)
 2011年度の研究室のメンバー(4年生5名)

  • 境田 昌寛
  • 真田 祐太
  • 平 彩乃
  • 竹内 千晴 
  • 西村 将太朗 



2010年度のゼミでは,結び目の交差交換による ネットワーク(単体的複体)の作成を試みています.まずは,各学生が春休み中に探してきた結び目たちが, 何回の交差交換で自明な結び目になるのかについて調べています.現在までに, ``見た目の交点数(最小交点数かどうかはわからない)"が同じでも,自明な結び目に変形するために 必要な交差交換数が同じにはならないと思われる結び目があることに気付きました. その過程で,少なくとも交差交換1回で自明な結び目になる``取りあえず無限個"の結び目を構成することが出来ました. しかし,それらが全て非自明な結び目かどうか,また全て本当に異なる結び目がどうかについては, ゼミのメンバーも工夫して調べようとしていますが,何か新しい手段が必要そうだということを感じていました.
  その後,上記で構成した結び目が,違う結び目なのかどうかを調べるために,p採色を用いて調べることにしました. ゼミのメンバーが構成した結び目のうち,19採色可能なものもありましたが,まずは,手作業(しらみつぶしで確かめる) で,19採色可能という事実に辿りつくことができました.そのうち,何採色可能かどうかは,modを用いた方程式で 解けそうだということをメンバーの数人が提案したため, (最初のネットワークづくりからは大きくそれましたが,非常に良いアイデアでしたので)それを確かめることにしました.
  上記について考えるために,まず,結び目Kの各交点での色塗りのルールを書き下した連立代数方程式の 表現行列M(K)の性質に着目しました.気付いたことは,まずdet(M(K))=0であることです. これは,連立代数方程式の性質から,M(K)の各行において,成分の和が0になること, または線形代数の次元定理(rankとKernelの関係)から導かれます. また,rankの性質から,Kがp採色可能であるための 必要十分条件が,M(K)の全ての(n-1)-小行列式がpを因数にもつことが分かりました.更に,どの(n-1)-小行列式も, 絶対値は同じ値になることに気付きましたが,その理由も,有限体上の行列の基本変形を用いて示しました. これにより,Alexander多項式の特殊値である,結び目のdetermiantにより,採色可能性を調べることができます. 卒業論文では,ここまでをまとめました(有限体上の線形代数が主な内容になります).


人間絡み目の作成(2010年6月撮影:ユニフォーム着用)
 2010年度の研究室のメンバー(4年生6名)

  • 青木 里織
  • 池永 祥吾
  • 佐々木 敏也
  • 佐藤 祐子
  • 高山 慶
  • 平野 慎也



2009年度のゼミでは, まず曲面(帯)の性質を調べることから始め, 帯には様々な結び目が隠れていることを実験で理解しました. そこで,身の回りに隠れている結び目をフィールドワークで探し, ゼミの各メンバーが1年を通して調べてみたい結び目を幾つか決定しました. 現在,それらについて,どの様な性質を持つのか調べているところです.
  前期の最後に,mod pを用いたp-coloring(p彩色)では, メンバーの結び目が全て非自明であることが確認できました. 更に,X多項式(Jones多項式)についても,その構成法からライデマイスター移動I, II, IIIで 不変であることを理解しました. また,私の発表では(私も7人目のゼミのメンバーとして発表しています), 『4次元を見る!』と題して,4次元空間では結び目が解けることや, そのときに利用したアイデアを用いると,4次元空間の中の3次元球面が どの様に見えるのかを考え,メンバーと色々議論しました.
  後期では,まず各自が注目している 結び目について,X多項式の評価を試みました(これは夏休みの研究課題でもありました). 手で計算することは,なかなか大変ですが,これらを卒業論文の一部としてまとめました (15交点の結び目のX多項式の評価を行った学生もいます!). その結果を用いて,結び目の交点数とX多項式の次数のspanの関係から, 各自の結び目の最小交点数の評価を与えました.
  以下のメンバー横の括弧内に,各学生が1年間注目した結び目の呼び名 (結び目の正式なタイプとそれぞれが付けた愛称)が記載されています.


    キャンパス内時計台前にて(2009年7月撮影)
 2009年度の研究室のメンバー(4年生6名)

  • 白井 翔(8_16; トヨタマーク
  • 田中 寛太(15_??; 最小交点数15の交代結び目.
  • 戸谷 真由子(8_18^*; 8_18の鏡像.アサガオの四つ葉
  • 長尾 佳典(6_1; ツイスト結び目.マンホールのふた模様
  • 廣田 貴之(8_8^*; 8_8の鏡像.クリオネ
  • 山田 圭織(4_1;ツイスト結び目.瑞穂区マーク



2008年度のゼミでは,最初のゼミの時間に, 1年間自分が注目したい結び目を探すフィールドワークから始めました. その後,それぞれがテーマに選んだ結び目の性質を調べるために, C.アダムスの教科書『結び目の数学』を輪読して色々な手法を学び,それらを用いて, 各自の結び目の性質を調べました.また,その成果を卒業論文としてまとめました. 以下のメンバー横の括弧内に,テーマとした結び目の呼び名(色々調べていくうちに 分かった結び目の正式なタイプ)が記載されています.


    卒業式後の送別会にて(2009年3月18日撮影)
 2008年度の研究室のメンバー(4年生6名)

  • 石川 由美(6_2; さるぼぼ結び目 (注1))
  • 奥田 聖章(7_4)
  • 梶田 元気(5_2; ツイスト結び目)
  • 庄司 武人(8_19^*; 8_19 結び目の鏡像)
  • 土蔵 志仁(7_1; トーラス結び目)
  • 山本 健一 (3_1#3_1; 2つの三葉結び目の連結和)
(注1) 6_2結び目が岐阜県高山市に古くから伝わる"さるぼぼ" というお守りの形に 似ていることから石川が命名しました. この呼び名は長郷研究室内での独自のもので 一般的な呼び名ではありません.